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2013年5月14日 (火)

トロンパス(トロン峠)を越えて(再掲)

4月26日晴れ
トロンフェディ4:00(徒歩)7:40トロンパス(5416m)7:50(徒歩)11:15フェディ12:00(徒歩)14:00ムクチナート

早朝のトロンフェディで

 まだ夜が明けぬ午前3時。アメリカ人のグループが起きたようだ。ガイドたちからこの日は「3時起床4時出発」と聞いてはいたが、それはガイドがいるからこそ、その時間に出発可能なわけで、ガイドを雇わぬ俺が1人で真っ暗闇の中、歩いて行けるはずがない。そんなことをしたら、それこそ道を見失い、遭難しないとも限らない。ドゥムレのロッジでも”Missing”と書かれたビラを見ている。俺は4時半か5時に起き、6時には出発、10時までに越えるつもりで、もうひと眠りしようとした。しかし、眠ることができず、このままでは寝過ごしてしまいそうで、俺も起きることにした。

何故、今朝はこれほど早いか?峠は10時を過ぎると強風が吹きすさぶので8時までに越えるのがベストだからだそうだ。俺は、この時間に起きた以上、「先にスタートした人たちの懐中電灯の灯りと足跡を追って行くしかない」と考えていた。荷物をまとめていると、すぐ横で寝ていたノルウェーの女の子たちも起き出したようだ。ヘッドランプの灯りとかで、起こしてしまったのだろうか?

荷物をまとめ、ロッジ内のレストランへ行く。そこにはすでにたくさんのトレッカーが集まっていた。空いているテーブルはほとんどないほどだ。それでも1つだけ空いていた4人掛けのテーブルで、俺一人紅茶を飲みながら、買い置きしておいたビスケットで朝食にする。ふと見ると、ノルウェーの女の子たちも入って来た。空いているところを探しているようだ。俺と目が合い、俺が1人でいるのを見てすぐにやって来た。

「おはよう、ジン!ここ、いいかしら?」
「ええ、もちろん!」
「何飲んでるの?」
「紅茶だよ。向こうで注文できるよ」

彼女たちも紅茶を注文し、そして何か2人で相談している。すると、

「ジン、こんな真っ暗の中、どのようにして行くの?」
「ガイドを雇っているインドネシアのおじさんやアメリカ人の3人グループがいるだろ?彼らがスタートした後に、ゆっくりついて行くつもりだよ」
「やっぱり!私たちもそう思っていたの!」
「そうするしかないでしょう?!こんな真っ暗の中1人で行ったら、おそらく道を見失うよ!」
「ええ、私たちもそう思うわ!」

しかし彼女たちの表情は、まだ不安げな感じだ。お互い、ガイドを雇わぬトレッカー同士。彼女たちはまだ若いし、俺はかつての経験、そして先月の経験もある。彼女たちも、このことは、これまでの会話の中で知っている。そこで、

「もしよかったら、僕たち3人で一緒に行く?」
「・・・!ええ!!もちろんよ (^_^)!」
「じゃあ僕たち3人は、彼らがスタートした後に一緒に行こう!」

彼女たちは嬉しそうに答えた。そして2人顔を見合せながら、「よかった!これで安心ね!」とでも話していたのか、不安げな表情は、もうそこにはなかった。やはり彼女たちだけでは不安だったのだろう。俺という道連れを得て、本当に嬉しそうだった。そしてのんびりと朝の紅茶を味わっていた。

やがて、おじさんたちが出発するのか、荷物を背負って外へと出た。それでも俺は悠然と紅茶を飲んでいた。すると彼女たちが、

「ジン・・・、もうみんな外へ出たけど・・・」
「まあまあ、慌てることないよ。もし、今すぐに僕たちが外へ出てごらん。それは彼らに”僕たちも一緒に連れて行ってください”と言っているようなものでしょ?それは良くないよ。彼らはお金を払ってガイドを雇っているのだから。でも、僕たちはそうじゃない。だから、彼らが出発して10~15分してからスタートすればいいよ」
「確かにそうよネ。OK!あなたの言う通りにするワ!」

彼らが外へ出て10分ほど経って、我々も精算をし、外へ出た。外へ出たものの、まだ暗闇の世界で、周りは何も見えない。そして、誰一人として出発していないようだ。未明の標高4700m、寒さに震えながら3人で身を寄せながら、時には「Which is cold ? Norway ? or here ?」と話しながら、誰かが出発するのを待っていた。5~6分ほどすると、暗闇に目が慣れてきて、多少は周りが見えるようになってきた。月明かりのせいもあるだろう。しかし、あまりの寒さに、俺は彼女たちに、「彼らでなくても、誰かが出発したら、僕たちもゆっくりスタートしよう」と話した。が、その矢先のこと・・・、

「Hey Jin ! You ready OK ? (ジン、準備OKか?)」
その声の主は・・・?そう!インドネシアのおじさんだ!!
「Yes. OK ! 」
「OK !? Let's go ! (OK!?じゃあ行こう!)」
おじさんがそう言うと、ガイドのパサンがそばに来て、
「ナマステ!ジン。ついて来なよ」と言う。
しかし俺だけがついて行くわけにはいかない。ノルウェーの女の子たちと約束した以上、俺には果たすべき義務がある。
「ちょっと待ってくれ!彼女たちも一緒にいいかい?」
「もちろんだよ。一緒においでよ」

パサンについて行くと、そこにはおじさんだけでなく、アメリカ人のグループも待っていた。お互いに「Good morning !」とあいさつしていると、パサンとアメリカ人グループのガイドのラジが何か相談している。2人は一列縦隊で並び歩く順番を話し合っていたようだ。その結果、先頭をパサン、次におじさんとしたのだが、おじさんはペースの速い俺に気を使い、2番目が俺、次におじさん、峠越えのこの日だけ雇ったおじさんのポーター。そしてノルウェーの女の子たち、ラジ、アメリカ人グループ、最後にアメリカ人グループの女の子がやはりこの日だけ雇ったポーターがつくことになった。

ところどころにガイドやポーターといった、峠越えの経験豊富な、頼れるネパール人を配置し、4組、総勢11名のパーティーでトロンパスを目指す。

(この日の旅日記、明日以降につづきます)

*この旅日記は1992年のものです。

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