エヴェレスト街道を行く その16
日本人ツアー客
午後のひと時をそれぞれのんびりと体を休めていたときのこと。ロッジのオーナーとラジンが深刻そうな顔で、何やら話している。彼らの会話の中から「ジャパニーズグループ」という声が聞こえた。
俺は彼らに
「どうしたんだ?何かあったのか?」と尋ねると、
「今夜、16人の日本人のグループがここで泊まることになった。そこで隣のロッジがオーナーの兄弟が経営しているので、そちらへ移ったらどうか?」と言う。
俺はすぐに決断した。16人ものグループツアーとは一緒になりたくなかったから!俺たちの会話を「何事か?」と思ったのか、T夫妻と I さんもやって来た。彼らにも同じ説明をする。
「dsching、君はどうするんだ?」と E氏。
「もちろん(隣へ)移動する。君たちは?」と聞くと、
「君が移動するなら、俺たちも移動するよ!俺たちはもう仲間じゃないか!」と答えてくれた。
俺は彼らに、俺が知っている日本人ツアーのタチの悪さを説明した。参加者のほとんどがツアーリーダー任せ、そのくせ何か問題が起きたら文句ばかり。さらに自分たちだけの世界を作る、日本語しか使わない、他の人々とコミュニケーションしようとしない、もしかしたら俺たちに対して「ハロー」さえも言わないゾ、と。
そして、干してあったシュラフを片づけ、荷物をまとめ、となりのロッジへと移った。まったく、いい迷惑だ!俺は仲間たちに対して、
「申し訳なかった。同じ日本人として謝るヨ」と言うと、彼らは口をそろえて、
「dsching、君が謝ることないじゃないか!君は何も悪くない!君は彼らとは違う。インターナショナルだ!」と言ってくれたのだ。彼らは英語がへたくそな俺でも、「国際人」「仲間」と認めてくれた。本当に嬉しい!
俺たちが初めに泊まる予定だったロッジに、16人のグループが到着した。ロッジの前で記念写真を撮り始めた。16人といっても、もとはバラバラなのだろう、それぞれのカメラで同じ写真を撮っている。その様子を不思議そうに眺めている T 夫妻や I さん、そしてシンガポール在住のフランス人夫婦。
「自分たちも写真を撮ろう!」と E 氏が言うと、俺はカメラマン役を買ってでた。
その後は再び、自由に過ごす。このロッジにピーチワインがあると聞き、すると I さんが「私も飲みたい!」と言うので、一緒に飲んでみた。アルコール度数はやや高めだが、おいしかった。
ロッジの前のキャンプサイトでは、この日カトマンドゥからルクラまで飛行機で、そしてここまで歩いてきたというアメリカ人夫婦。彼らに「ハロー」とあいさつすると、「ハロー!あっ、こんにちは!」と日本語でもあいさつされた。俺はびっくりして、「こんにちは!」と言うと、「やっぱり日本人ですネ!」と、とても流暢な日本語が返って来た。
彼らは以前、京都に3年住んでいたことがあるそうだ。ご婦人は日本語がとても上手なのだが、ご主人は全く話せないらしい。彼らに16人の日本人グループのことを話すと、彼らもほぼ同感。ここまでの道中、何度か彼らと会っていたのだが、ほとんど誰も声かけようとしなかったらしい。
ご婦人はさらに、「日本人はせっかくの休みを、どうして自分のために使わないのか、なぜグループで行動するのか、とても不思議です。」と話していた。日本でもそのような光景を、何度も見ているからであろう。
そして私に対して、「あなたは今、トレッキングをしているけど、同時に英語の勉強もしてるでしょ?」と話した。
「英語の勉強?・・・あっ、そうか!」
「そう!だって英語でないと(仲間達と)コミュニケーションできないでしょ?」
言われてみれば、確かにそうだ。俺と仲間たちとの会話は常に英語。トレッキングをしながら英語の勉強、それも「生きた英語」を実践している!
「とても大事なことですヨ」と、ご婦人は話してくれた。
しばらくして付近を散歩していた T 夫妻が戻って来た。彼らは開口一番こう言った。
「dsching、君の言ったとおりだよ」と。
「何が」と思って聞いてみると、彼らは戻ってくる途中、ツアーで来ている日本人2人とすれ違ったらしい。日本人2人は前から歩いてくる彼らと目を合わせないようにしていたようだ。そこで、T 夫妻のほうからすれ違う直前に「ハロー!」とあいさつしたらしい。その時2人の日本人は、全く予期していなかったのか、びっくりしたようにあわてて「ハ・ハ・ハロー」と答えたそうだ。
俺が「”ハロー!”さえも言わないゾ」と話していたとおり、その日本人たちは挨拶しようとしていなかったのだ。T 夫妻は身をもってそれを実感したようだ。
だからこそ、逆に俺に対する皆の評価が高まったようだ。昨日の学生風の男3人組といい、今日のツアーグループといい、あまりにも恥ずかしい。「言葉ができない」のは俺だって同じ。でも、人として最低限、挨拶ぐらいできなくてどうする?海外へ来るのなら、もっとインターナショナルになれよ!
ここパクディンの村も、電気はまだない。明るいオイルランタンの下で夕食。もちろん、いつもの仲間たちとともに!そしてトランプ。いつもやっている「クレージー8(ページュ1と同じ)」ばかりではつまらないので、この日は「七並べ」。
ラジンは初めのうちの2~3ゲームは見ていたが、すぐにルールを理解したようで、当然「俺もやる」と言ってゲームに加わった。
「ねぇ~、だれ~?ここ止めてるのは?」
「さぁ?私じゃないわヨ!」
「知らないなぁ?」
「パス、何回までだった?」
などなど、にぎやかな笑い声がダイニングルームに鳴り響く。
そして就寝前、明日の出発時間の打ち合わせ。
「日本人ツアーグループより先にスタートしよう。人数も多いしペースも遅いだろうから、追い抜くのは大変だ。」
「じゃぁ、何時に起きて何時に出発する?」
「6時起床。7時半、遅くとも8時までには出発した方がいいだろう。」
「OK!」
そして床に就く。
パクディン・サンライズロッジにて
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